不安と疲れの中でのご相談
ご相談者様は、83歳のお母様を看取る準備をされていました。12年前から認知症を患い入院中。会話はできない状態が続いていました。「危ないと言われてから何度も回復と悪化を繰り返している」とのお話からも 、長い介護の日々が伝わってきました。13年前にお父様の葬儀を経験された際には、「新聞に出したことで多くの方が来てしまい、疲れ果てた」とのこと。「もうあんな思いはしたくない」との言葉には、静かに、誰にも知られずに見送りたいという強い意志が込められていました。
「ふたりだけで」――そっと寄り添う時間
現在、ご相談者様も介護のお疲れから心身のバランスを崩し通院中とのことでした。「子どもや孫を呼ぶかどうか悩んでいる」と語られながらも、「夫婦二人で静かに送りたい」との想いを何度も繰り返されました。ご近所にも、親族にも、入院のことは伝えておらず、「誰にも知られずに送りたい」という願いを尊重し、看板や行灯を一切出さない形での葬儀をご提案しました。「お二人だけでのお見送りも可能です」とお伝えすると、深くうなずかれたその表情には、安堵と決意が入り混じっていました。「どうか少しでも心を休めてください」とのスタッフの言葉に、「たまには外に出るようにします」と、わずかに微笑まれたことが印象的でした。
ご希望に沿った“控えめで穏やかな式”
お母様は郵便局に長年お勤めされ、地域に誠実に尽くされた方でした。長く施設で過ごされていたこともあり、式はご夫婦お二人だけで行われることになりました。お布施や日程の相談についてはご住職と直接やり取りしていただき、式前の準備では「火葬まで時間があるので湯灌をおすすめします」とご提案しました。ご相談時からご家族の想いを丁寧に汲み取り、「焦らず、無理なく進めましょう」と声をかけながらサポートしました。
最期のお別れ ― 丁寧に、ゆっくりと
お別れの場では、通常ご家族のみで副葬品を入れていただきますが、今回は参列者がご夫婦お二人だったため、スタッフも少しだけお手伝いをさせていただきました。慌ただしさを避け、ご家族のペースに合わせながら、静かにお見送りの時間を整えていきました。通夜ではご住職が故人様用の輪袈裟を持参。故人様へお掛けした後は、最後には喪主様の手で、お花を優しく飾り直していただき、静かな感謝の時間となりました。
そっと心に残る“ふたりの葬儀”
葬儀後、ご相談者様は「これでようやく安心しました」と静かにお話しくださいました。大々的な儀式ではなく、派手さもない――けれど、その静けさの中には、確かに“夫婦の絆”がありました。私たちは、K家様のように「人知れず、心を込めて送りたい」という想いにも寄り添い、その方らしいお見送りを大切に形にしていきます。どんな小さな希望でも構いません。どうぞお話しください。“安心”は、信頼の中で生まれるものです。
